でんしゃがはしる

『でんしゃがはしる』

※この絵本は絶版でしたが、2016年2月に復刊されました。以下の文章は発表当時の付録に掲載された、山本忠敬自身の取材記です。

「でんしゃがはしる」取材、こぼればなし
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山本忠敬

電車の絵本をつくろうと思いたって、山手線の取材を始めたのが、二年くらい前でした。
ひまを見ては山手線に乗って何度か回っているうちに、この電車が駅や途中で実にたくさんの電車にあったり、わかれたりしているのを発見したのです。そうして、主題をこれにしぼって取材しだしたのが昨年の春ごろでした。
これを書き上げるのに、まるまる二カ月かかりました。遅筆の私は、例によって、「こどものとも」のしめ切りが過ぎてしまっているので、最後の三日ぐらいはてつや、てつや、てつや、でした。
書きあがったときには体重が五キロも減ってしまい、太りだしてやせたがっているうちのかみさんをうらやましがらせました。このしわよせが、おそらく印刷所の方々にかかっているいることと思います。ゴメンナサイ。

●品川駅を出発する山手線外回り

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また、下絵ができて、絵を描きだしたところ、編集部の方々が手分けして、山手線全線をカラー写真で写して来てくれました。その中に、私が作った構図より良いのがあったりしてできかかった絵を描きかえたりする、うれしいヒメイをあげることがあったりして、大いに参考になりました。感謝しています。ここにのせた写真は、そのほんの一部です。

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五反田・目黒間に、五角形で五ツ目玉のしゃれた形の、見なれない信号機がありました。絵本の主題とは関係ないのですが、おもしろいので私の遊び心で描き入れました。
何のための信号機なのかわからないので、編集の方にしらべてもらったら、なんとそれは脱線を知らせる信号機だったのです。五反田・目黒間は山手線と山手荷物線が併走しているところで、その貨車が脱線したとき、五ツならんだ赤燈が点滅して脱線を知らせるのだそうです。

●五反田駅と目黒駅間の5ツ目信号

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ある日、日暮里、鶯谷を取材したときのことです。写真の上手な峰村さん(昨年七月号の『しんりんてつどう』をかいた先生です)をさそって、写真をとってもらおうと、この付近には、江戸時代からの古い豆腐料理の”笹乃雪”や、漱石の『我が輩は猫である』にでてくる”羽二重団子”がある話とか、谷中に古い寺がある話をすると、文学好きの峰村さんは、漱石の喰べた団子を喰べよう、と重いカメラを持って同行してくれました。
取材しているうちに夕方になってしまったので、きょうはこれくらいにして、団子を喰べて帰りましょう、と取材をきりあげて、労をねぎらおうと団子屋の前にくると・・・
“本日売切”

●渋谷駅の地下鉄・銀座線

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東京に生まれて、東京で育った私には、盛り場から盛り場を結んで走る山手線の取材では、ああ、あそこにこんなうまいもの屋があった、とか、そうだ、あの飲み屋は、まだやっているかな、などと、つい、そちらのほうにウエイトが掛かってしまい、何の取材やらわからなくなってしまったことが、しばしばでした。
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さて、最後になりましたが、この絵本の進行役をつとめる山手線電車は、”一〇三系・通勤型直流電車”とよばれる国鉄電車で、中央線特別快速電車や、京浜東北線電車なとどと同型の電車です。山手線には、現在五〇〇両の電車があり、一〇両編成で一日五〇本、走っています。
外回り、内回りに分かれて、それぞれ反対方向に走って、ぐるりと東京を一周しています。一周約三四・五キロメートル、時間にして約一時間です。山手線は一日にのべ五七九周回ります。一日の総走行距離は、約二万キロメートル、これは地球を半周する長さです。

●大塚駅の山手線と都電・荒川線
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●ビルが乱立する、秋葉原付近
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●浜松駅で山手線と東京モノレール
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●田端駅から西日暮里方面
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「少年版・こどものとも267号〈6〉でんしゃがはしる 折り込みふろく”絵本の楽しみ”」より



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