でんしゃがはしる

『しゅっぱつしんこう!』

しゅっぱつ しんこう!の旅
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山本忠敬

この絵本を作るために九月と十一月の二度、編集部のTさんとふたりで列車の乗って、取材の旅をしました。始めに一言お断りしておきたいのですが、この絵本は、この取材の旅での私の心象の風景と時間の中を走っている列車の架空の旅のお話だということです。
旅はまず羽田から仙台に飛び、仙台から東北本線のL特急で盛岡に行きました。試運転の東北新幹線が時々、並行して走っていました。
私が二年前に見た仙台と盛岡の駅も町も一変し、モダンな都会色に新幹線が塗り替えてしまっているのには、よかれあしかれ、恐れ入谷の鬼子母神でした。
盛岡から山田線(盛岡〜釜石間)の急行で茂市まで行き、茂市から岩泉線(茂市〜岩泉間)の鈍行
に乗って、どこかローカル色豊かな駅に降りようというのです。
山田線は単線で、急行のディーゼルカーは山路をスイッチバックなどして登って行きます。十一月の旅の時はなごりの紅葉が線路の両側に空まで燃え上がり、峠の陸中川井辺に来ると、白一色の山肌に粉雪が舞い、落葉した木々の小枝に霧氷の花がキラキラと満開です。この秋から冬への舞台転換のあざやかさをいながらに見せてくれる旅は山田線の大サービス。
岩泉線ももちろん単線で、ディーゼルカーです。Tさんの勘で終点岩泉駅から二つ手前の浅内駅で降りると、これがなんと、この絵本の終着駅にそのまま使っておつりが来るというピッタシの駅。Tさんの地勘の良さに脱帽です。さっそく駅のホームで撮影やスケッチをしていると、駅長か来て、「お仕事のおじゃましますが、荷物の入れ換えをします」といわれて、つい「どうぞ、どうぞ」といってしまったが、こちらこそおじゃましているので赤面ものでした。黄色の鉄帽をかぶって線路を歩いて来た駅員さんは、「ご苦労さんです」と声をかけてくれたりで、この浅内は心あたたまる、ほのぼの駅でした。どこかの都会の駅の駅員さんに見せてあげたいものです。
終りにこの絵本の列車について、お忙しいなかを色々と親切に御指導いただいた、雑誌「鉄道ファン」の真柳哲也様と、鉄道マニアとして助言をいただいた藪内竜太君に、この誌面をかりて心よりお礼申し上げます。ありがとうございました。

「少年版こどものとも65号〈8〉しゅっぱつ! しんこう 折り込みふろく”絵本のたのしみ”」より



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